日記

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5月14日 日記

陸上のスパイクがずっと水色の人がいた。性別は特に記述しない。あなたたちの想像力を鍛えるためだ。その人は高跳びの人で、短距離用のスパイクは買い換えるたびに色が変わっていたのに、高跳び用のスパイクは買い換えても水色のままだった。そのスパイクの色は水色というよりは空の色で、見るたびに夏の空を思い出した。

 

一度だけその人に理由を聞いたことがある。「高跳びって陸上競技の中で唯一、空を見上げる時間がある競技なんだよね。ほら、背面跳びだからさ、バーを越えるときに上向いてるじゃん?クリアリングが成功してやった〜越えたぞ!!ってときに空が見えるんだよ。で、そのやった〜ってときに空と一緒にスパイクも目に入るんだよね。そしたらさ、スパイクの色と空の色とが一緒でさ、それがめちゃくちゃ嬉しくて、だからずっと、この色のスパイク履いてるんだ」

 

その人は最後の夏の大会に出場する前に怪我で部活を離れた。あれほど大事にしていたスパイクを部室に残したままみんなのもとを去った。

 

今日は久しぶりにその母校を訪問した。無理をいって部活も見学させてもらい、部室にも立ち入った。部室にはその人のスパイクがまだ置いてあった、というよりは飾られてあった。部員の誰もこのスパイクが誰のもので、どうして置いてあるのかを知らなかった。それでもその夏空のようなスパイクは丁寧に磨かれてあって、これからくる長い長い夏のことを予感させた。