ハンバーガーにかぶり付いたそいつは、Lサイズのカップに残った氷をストローでかき混ぜながら、「退屈だね」なんて呟き続ける。退屈なのは迷った挙句に大規模チェーン店しか選べないそいつのつまらなさに起因しているのかもしれない。もしかしたら、そいつの対面に座っているのが退屈な人だからという理由かもしれない。なんにせよ、退屈だと思える程度にはそいつの人生は充実していて、対面に座る人の隠し事に死ぬまで気づかない。
ここで死ぬのはそいつではなく、対面に座る人ではあるが、その死因はなんだっていい。そうだ膵臓癌にしようか。分かりやすく人が悲しむから。とにかく、対面に座る人は膵臓癌を隠しながらそいつの「退屈だね」に付き合う。本当はもっとしたいことがあるはずなのに。
そいつと別れた対面の人は、スマホの「死ぬまでにやることリスト」を開く。「1.吸血鬼に会う」にチェックを入れて電源を切る。リストのすべての項目にチェックが入った。
