日記

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5月12日 日記

吸血鬼は夜に爪を切る。朝が寝る時間だから夜にしか切れないとかいうことではなく、迷信を信じているから。夜に爪を切ると蛇が出る迷信の同類で、夜に爪を切ると、鬼が出るらしい。吸血鬼であるからには鬼なのに、わざわざ鬼を呼び寄せるなんて変なことをしているとその時は思った。でも、全然変なことではなかった。吸血鬼は他の吸血鬼と出会ったことがないという。本人が気づいていないだけではないらしい。吸血鬼は人間の血を吸うから人間かどうかには特別敏感で、だから吸血鬼に気づかないわけはないという話だ。

 

吸血鬼に親はいない。正確に言えば覚えていない。物心ついた時には吸血鬼で、ずっと一人で生きてきた。他の吸血鬼と出会うこともできずに。だから吸血鬼は今日も夜に爪を切る。どこかに仲間がいると信じて。